整いました!釧路の夏とかけまして、しょっぱい打ち上げ花火と解きます。
「その心は?」。
ホンの一瞬で終わります…。

裸心プロジェクトの覆面ライター・ねずっち2号です(ウソ)。この夏、あの名企画が2年ぶりに戻ってきました。かつてこの裸心ブログを舞台に、交流会やイベントを活き活きと彩る名物(?)参加者らを取り上げ、大きな反響を呼んだ『活き活き人』です。2006年2月に第1回が掲載され、2008年8月の第19回で休止した企画ですが、このたび臨時ではありますが復活いたしました!

区切りとなる20回目の活き活き人は、通称・マジシャンとして知られるあのお方です。金曜の会の席上で、鮮やかな手さばきでトランプなどを操る彼のテーブルマジックに、参加者たちの間から歓声(黄色い声?!)が沸き起こったことは数知れず。まさに花火のごとき一瞬のイリュージョンですが、果たしてその原点はどこにあったのか?そして知られざるその横顔とは?“マジシャン”の美学とこだわりが、随所に垣間見えるインタビューとなりました。どうぞご覧ください!!


            第20回 活き活き人 山田康博
   
               『 I MAGICIAN 』


某信金の釧路支店にて貸付を担当するお堅い金融マン、それが彼の昼間の顔だ。オホーツク育ちの29歳。昨年4月、転勤で釧路へやって来た。「住む前は、霧でジメッとしてカビが生えてくるみたいなイメージ。実際は適度に都会で住みやすいマチだったので、けっこう印象が変わりましたね」と、来釧当時を振り返る。

?


トルネードマートの黒いジャケットとパンツ、ハイストリートのプリントシャツというおなじみのファッションで、金曜の会に初登場したのが昨年6月5日。職場以外に知り合いが一人もおらず、週末は帰省して地元の友達と飲み歩くか、アパートの自室でネットショッピングに興じる夜が続いていた。「このままでは腐ってしまう…」。ネットで交流会やコミュニティを探したら、最初に表示が現れたのが裸心プロジェクトのブログだ。参加を即決し、さっそく会場である『Pieno Di Q厨』へと足を運ぶ。「そんなに参加者と話せなかったけど、人と人のふれあいが心地よく、ニコニコしながら最後まで時間を過ごせたのを覚えてます」。ジントニック、カンパリにバーボンetc。好きなお酒を自由に楽しみながら、人の輪の中で過ごす居心地のよさがすっかり気に入り、次もまた金曜の会に来ようと思ったそうだ。お得意のマジックが交流に役立ったことはもちろん言うまでもない。

?

マジックとの出会いは、7歳の頃にさかのぼる。当時住んでいた札幌のデパートのおもちゃ売り場で、マジックディーラーが実演する『お化けハンカチーフ』に出くわした。まるで閉じ込められたお化けが、逃げ出そうとするかのように上下する不思議なハンカチだ。子供心に「きっとものすごい仕掛けがあるぞ!」と、全財産(笑)の1500円を投じて買ったのだが、自宅で開いた取扱説明書に書かれていたタネがあまりにバカバカしく思え、ハンカチをぶん投げてふて寝してしまう。翌日、部屋の隅に横たわるそれを見て、おもちゃ売り場で出会ったあの衝撃がよみがえった。「こんなちゃちなタネでも人を驚かせることができるんだ!」。それからはマジックにまっしぐら。「毎回買うわけでもないのに、例のおもちゃ売り場をしょっちゅうウロウロして、マジックディーラーにうっとうしがられましたね」と、苦笑いする。

?

内輪の友人にマジックを披露して彼らが驚く姿を楽しむ日々に、5、6年ほど前転機が訪れた。趣味がマジックだと知った職場の上司が、取引先を招いた春の懇親会での余興を頼んできたのだ。「いーっすよ♪」と二つ返事で軽く引き受けたものの、マジックの手順を間違えたり、舞台のBGMが途中で終わったりと、段取りの悪さが災いしてマジックショーは大失敗する。200人ほどの客席に漂うしらけた空気と失笑を目の当たりにして、「この場から消えてしまいたい…」。死にたくなるほどの屈辱を味わったことで、ステージをとことん極めてやると心に決めた。数ヵ月後、異動先の美幌でリベンジの機会が早くも訪れた。同じく取引先との懇親会での余興のショーだ。完璧なタイミング、完璧なステージ運び。80人ほどの客席から起こるやんやの喝采に、舞台の彼は心の中で思わず快哉を叫んだという。「ザマーミロ!!」。

「ショーの醍醐味は?」と尋ねたら、「自作自演なところです」という答えが返ってきた。自分の色で染め上げるため、舞台にアシスタントは一切登場させないという。人を使うと完璧に舞台をコントロールできないからだ。ショーのポスターやチラシも、手書きのイラストを加えたりしながらパソコンで自作する。好きなことはとことん突っ込む凝り性らしく、手品の道具を自作することもある。マジック以外の趣味は、酒・音楽・映画・読書。イギリスのロックバンド、パルプのシンガーとして知られるジャーヴィス・コッカーと、アメリカのモダンホラー作家であるスティーヴン・キングが自身のアイドルだ。読書好きが高じて、自作の長編スリラー小説をペーパーバックで自費製作し、凝った内容が仲間内で好評を博したこともあるそうだ。地元の月間情報誌に趣味のコラムを執筆したり、地元クラブでロックDJも務めるなど、その横顔は多趣味かつ多才である。

?

淡々と舞台が進む中、かみそりや針を使ったショッキングなネタが突如顔を出す。こんな黒い味わいを随所に仕込むのがマジシャン・山田の持ち味だ。リスペクトするのは、フランスの世界的マジシャン、デビッド・ストーンと日本が誇るマジックコンビ・ナポレオンズ。彼らの毒を含んだコミカルな笑いが、自身のショーの目指すところでもある。でも、アブナイ世界観はあくまでも舞台の上だけのこと(笑)。これからは、ボランティアやチャリティといった、マジックが人にとって役立つ意義を見つけていきたい。例えば、病院に入院する子供たちに自分のマジックを見せられたら、つらく苦しい日常を忘れ、一瞬でもニコッとほほえむことができるかもしれない、なんてことを考える。「マジックは華やかな見た目と違って、地味でストイックな仕込みがたくさんあるんですよ」。こんな隠れた努力も、舞台の向こうの大人や子供の驚いた表情を見れば、一発で吹っ飛んでしまう。子供たちの笑顔に触れるのももちろん楽しいが、ショーをやっていて最高の瞬間は、実は「大人が子供の顔に戻ること」。一見クールな彼も、舞台の上では子供の心に戻っているのかもしれない。そんなことを考えさせられるセリフだ。

?

これからの抱負を尋ねたら、穏やかにほほえむ彼からこんな言葉が返ってきた。「生涯マジシャンのつもりです」。不可能が可能となるトリッキーな世界に魅せられた一人の青年が、エンターテイナーとしてマジックへの限りない愛と忠誠を心に誓う。そんなマニフェストに触れた気がした記者の脳裏に、ふとパルプのナンバー『I SPY(アイ スパイ)』の、ジャービスの低い歌声が流れていった。それになぞらえるなら、まさにI MAGICIAN(アイ マジシャン)というべきか。山田のショーにどうやら終わりはない。

                 (取材・及川義教/写真撮影・星野高志)