活き活き人担当スタッフ・及川です。工芸をテーマにした美術展が釧路で開かれたので、ご紹介します。

    『ウィリアム・モリスとその時代 アーツ・アンド・クラフツ展』
              (北海道立釧路芸術館にて ※8月31日にて終了)
『ウィリアム・モリスとその時代 アーツ・アンド・クラフツ展』












ウィリアム・モリス(1834−1896)は、ロンドンにほど近いウォルサムストゥ生まれの工芸家です。『近代デザインの創始者』と呼ばれ、デザイナーとしてステンドグラスや壁紙、織物、家具などを幅広く製作。出版にも乗り出してブックデザインを手がけた多才で、詩人としても世に認められていました。裕福な家庭に生まれ、有能な経営者でもありましたが、彼自身は社会主義を信奉し、資本主義打倒を目指す思想家だったという、いかにもこの時代の知識人らしい逸話が残っています。

この展覧会では、モリスが唱えた美術工芸運動『アーツ・アンド・クラフツ』に関わった、イギリスとアメリカの画家、デザイナー、陶芸家、建築家らの作品約140点が紹介されました。アーツ・アンド・クラフツ運動とは、産業革命が進んだ当時のイギリスにおいて、機械化によって大量生産された画一的な製品に反発し、職人らの丹念な手仕事による作品に価値を見出そうとする運動で、その思想は世界各地に広がり、後のモダンデザインに大きな影響を与えました。分かりやすく現代に置き換えると、100均で大量に並んでいるような味気ない商品が、世間にあふれかえっているのにウンザリし、もうちょっと手作りのコダワリが感じられるような良質なモノを身の回りに置こうぜ!という運動といったところでしょうか。もっとも、ワタシもいろいろと100均のお世話になっているので、説得力のカケラもない例え話ではありますが(爆)。
フィリップ・ウェッブのリクライニング・アームチェア



←フィリップ・ウェッブのリクライニング・アームチェア






テーマごとに4つのブロックに分かれての展示でしたが、第1部の『モリスとモリス商会』では、建築家フィリップ・ウェッブがデザインしたリクライニング・アームチェアが、展示室の中央に置かれ、ひときわ目を引きましたね。全体のデザインの美しさや、落ち着いた深みのある色合いに引かれ、こんなチェアに座ってくつろいでみたいもんだなぁと思いました。壁面にはモリスがデザインした初期の壁紙が展示されていましたが、『るりはこべ』や『りんご』といった自然をモチーフとした、緑や青の落ち着いた色調が目に心地よく、飽きのこないシンプルさとデザインの美しさが同居しているなと感じました。アートとして壁紙を眺めるって、なかなかないことですよねぇ。

第2部『アーツ・アンド・クラフツ展協会とその仲間たち』では、モリスに共鳴し彼の元に集まった人々の作品も、数多く取り上げられました。更に洗練され、精巧なデザインになったモリスの『柳の枝』『秋の花』や、(おそらく)ジョージ・ギルバート・スコットの『インディアン』といった壁紙の美しさもさることながら、モリスの弟子ジョン・ヘンリー・ダールの『ミカエル・デイジー』や『野バラ』といった壁紙のデザインに、より心を引かれましたね。更なるシンプルさと淡い色合いが印象的で、こんな柄のネクタイがあれば締めてみたいなと思いました。モリスとダールの手による『モリス商会のベルベット見本帖』は、ハンカチにできたら最高にステキだと思いましたよ!うれしかったのが、モリスの盟友だった画家エドワード・バーン=ジョーンズが挿絵を担当した本も展示されていたことです。バーン=ジョーンズや、モリスの初期の出資者だったダンテ・ガブリエル・ロセッティは、ワタシが大好きな『ラファエル前派』と呼ばれる画家たち。特に、『英詩の父』として知られるジェフリー・チョーサーの作品集に、バーン=ジョーンズが付けた挿絵は、木版画ながら彼らしい雰囲気が表れていて、ホンモノを眺めることができた!!というささやかな興奮がありました(^.^) あぁ、ロンドンに飛んで行ってラファエル前派の絵が見たい…。
モリス商会のベルベット見本帖




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第4部『アメリカに渡ったアーツ・アンド・クラフツ』では、アメリカのデザイナー、ハーヴェイ・エリスやグスタフ・スティックリー製作の、肘掛け椅子や書き物机、テーブルといった家具が目を引きました。シンプルで堅牢なデザインからは実用的な耐久性(素材の違いもあるようです)が漂い、より作家性や芸術性を重視した印象のあるイギリスの製品と比べると、芸術性と実用性がイコールであることを目指したアメリカといった感じです。使ってナンボでしょ?という国民性みたいなものが感じ取れて、興味深かったですね。イギリスの家具は「取り扱いに注意」みたいなのもあったので(笑)。

顔なじみのセレクトショップの店主と、この展覧会について語っていて「モリスはパンクだ」という話になりました。合理主義という経済性のみに傾いた、当時の時代の空気に反旗を翻した彼の精神。これはすなわちパンクだというワケなんですが、パンクとはスタイル(形式)ではなくスピリット(精神)だというのが、店主とワタシの共通意見であります。そんな風に考えると、今から100年以上も前にこの世を去った、“小難しそうな芸術家”である1人の男が、古びることなく生き生きと現代に通じる姿に見えてきます。オールドパンク?それとも大昔の活き活き人(笑)?どう呼ぼうが観る側の自由です。アートとは、そしてパンクとは自由な精神のことなのですから。ではまた。